モータのページ
モータのページ
”デコーダを作る”で、デコーダを作成し、マブチFC-280の簡単な特性を測定して見ました。今回は今後のBEMFを用いたモータ制御のために必要なモータ特性を知るため、簡易測定器を作り、TOMIX M-4モータの特性を調べて見ました。
参考書物:
実験とシミュレーションで学ぶモータ制御―Visual Basicコード付き
見城 尚志 (著), 高橋 久 (著), 寺内 美奈 (著), 藤田 敦 (著), 佐渡友 茂 (著), 久保 雅俊 (著), 高田 雅行 (著)を主に参考とさせて頂きました。また、VBのコードを元に、VC#でコードを書きました。
1.DCモータについて
鉄道模型に使用されているモータはDCモータです。このDCモータの基本特性について、桂庵が勉強した事を書いておきます。詳しい内容は専門書等で勉強して下さい。モータは電気と機械の要素を持ったメカトロニクスです。そのため、基本特性は電気関係と機械関係の2つの要素で表されます。
1.1.DCモータの電気的特性
DCモータは、回転するために電流の向きを変える整流子、内部抵抗、コイル(インダクタンス)、発電機(逆起電力)で電気的に①式で表されます。ここで
v(t)はモータに加える電圧
i(t)はモータに流れている電流
Vbは整流子に発生する電圧
Raは内部抵抗
Lはインダクタンス
Ecはモータが回転していることによって発生している逆起電力です。
面白いことにDCモータは自分で回って、自分で発電しています。
1.2.DCモータの機械的特性
モータが回転するためには、モータがトルクを発生しなければいけません。トルクとは回転する力の事です。また、モータには慣性モーメントと呼ばれる重さのようなものがあります。この慣性モーメントは、大きければ大きいほど、大きな回転力(トルク)が無ければ回りません。通常の直線的な動きでの重りと同じようなものです。重ければなかなか動かないのと同じことになります。KATOでフライホイールが付いている機関車がありますが、このフライホイールによって慣性モーメントを大きくしています。慣性モーメントを大きくすることによって、急な加速、減速が出来なくなります。逆に言えばスムーズな動きとなります。DCモータの機械的特性は②式で表せられます。ここで、
T(t)はモータで発生するトルクです。発生したトルクは無負荷なのですべて自分が回るだけに使用されます。負荷がある場合は、②式の右辺に負荷で使用するトルクが必要となります。w(t)は、モータの回転数です。正しくは角速度と言います。通常回転数は、[rpm]で 毎分の回転数で示されますが、計算式では、角度/秒となります。また、角度も”度”ではなく、[rad]ラジアンになります。ラジアンとは、角度を表す単位です。"度"との比較では360度が2πラジアンになります。(一回転すると、角度で2πラジアン回転したといいます。)
Jは先ほど説明したモータの慣性モーメントです。
Dは粘性抵抗係数と言われる機械的抵抗係数で、回転数(角速度)wに比例する抵抗を示します。速度に比例する粘性抵抗では、車のダンパーがあります。車のダンパーは立て揺れの速さに比例して、抵抗を持ち、車の振動を押さえています。
Frは、その他の機械的抵抗です。モータ内部の磁気損失等があります。
1.3.電気と機械を結ぶ特性
いままでは、電気、機械別々でした。しかし、これではモータがどんなふうに回るのは分かりません。ここでは、電気と機械の特性について説明します。最初は逆起電力です。電気の式(①式)のなかでEcと説明した逆起電力です。
逆起電力はモータの回転数(角速度)に比例した電圧を発生します。
ここでKeは、逆起電力定数と呼ばれる係数です。回転数に比例し、この係数によって逆起電力が決まります。(詳しくは専門書を読んで下さい。)
次にトルクです。モータが発生するトルクは、④式で表されます。
モータが発生するトルクは、モータに流れている電流に比例する事が分かります。Ktはトルク定数と呼ばれる電流とトルクを結ぶ係数です。
そして最後の式です。
逆起電力定数とトルク定数は同じであると言う事です。
ここで①-⑤式すべてまとめて書いておきます。
モータの特性を知るために、上記の定数を知ること必要です。
2. TOMIX M-4モータを測定して見る。
時間的に電流とか回転数が変化する時を動的な状態と言います。また、時間的に電流、回転数が変化せず一定の時を静的と言います。最初に静的な状態で測定できるモータの定数を考えてみます(2.1/2.2/2.3項)。その後、動的な測定を行って見ます。測定可能な項目として電圧、電流、回転数(周期)としています。2.1.逆起電力定数(トルク定数)、整流子電圧を測定
①式と③式でv(t)が一定であれば、回転数が一定であると電流も一定であることが分かります。もし、電流が非常に小さければ、Ra・i(t)は0に近づき、電圧と回転数の関係式になりました。
M-4モータを他のモータで回し、回転数と逆起電力を測定することによって逆起電力定数(トルク定数)が測定することが出来ます。この関係を用いて測定した結果を示します。逆起電力の測定では、モータに10KΩの抵抗をつなげ、他のモータ(FC-280)でプーリとゴムでM-4モータを回転させました。
データをグラフに示します。このグラフすべてのデータに対して1次近似を行うと
V = 2.65e-4[v/rpm] × w[rpm] + 0.437[V]
となりました。Vbである0.437Vの項が大きすぎるのと、グラフから分かるように15000[rpm]を超えるとグラフが曲がって来ていることを考えると高い回転数では、正解に測定出来ていないようです。ゴムとプーリでは無理かも知れません。次のグラフは、上記の高い回転数の内上位2つのデータを消して作成したものです。
回転数の高い2つを除いた場合、1次近似で
V = 3.06e-4 [V/rpm] × w[rpm] + 0.15[V]となりました。
このグラフが正しいとして、
Ke = 3.06e-4 [V/rpm] = 3.06e-4 × 60 ÷ 2π = 2.92 e-3 [V.s/rad]
Vb = 0.15[V]となりました。
また、Kt = Ke からKtも
Kt = 2.92 e-3 [V.s/rad] または[N.m.s2/rad]となります。
2.2.内部抵抗Raを測定
①式で静的状態かつw = 0とすると
v(t)=5Vとして、モータを回転しないようにしながら電流を測定したら0.53[A]でした。
Ra = ( 5 - 0.15 ) ÷ 0.53 = 9.15 [Ω] となりました。
2.3.機械的定数を測定する。(粘性抵抗係数Dとその他の抵抗Fr)
機械的な定数を測定するのは、本来は機械用の測定器が必要でありますが、ここではすでにトルク定数が分かっているので、④式②式
は、静的な状態では、
両辺をKtで割り
電流 i(t) と回転数w(t)の関係式になりました。
下にM-4モータの電流、回転数のグラフを示します。
上記のデータより、1次近似を行い
i(t) = 1.21e-3[mA/ rpm] ×w[rpm] + 48.31[ mA]
となりました。
Ktを掛けてDにします。
D = 1.16e-5 × 2.92 e-3 = 3.36 e-8 [N.m.rad / s]
同様にFrは
Fr = 48.31e-3 × 2.92e-3 = 1.41e-4 [N.m]
Frは、トルクで表された抵抗です。単位系を通常小型モータに用いられているg.cmにして見ます。
Fr = 1.41e-4 × 10200 = 1.44 [g.cm] になりました。
ところで、このモータの内部抵抗が9.15Ωであることより、12Vでモータ起動時に
(12 - Vb )÷9.15 = 1.29 [A]
流れることになります。
従って12V起動時のトルクは
T= Kt × i = 2.92 e-3[N.m.s2/rad] × 1.29[A] = 3.77 e-3 [N.m]
= 3.77 e-3 × 10200 = 38.4 [g.cm] となりました。
静的な測定で得られたM-4モータの定数をまとめてみます。
A. 整流子電圧 Vb = 0.15[V]
B. 内部抵抗 Ra = 9.15[Ω]
C. 逆起電力定数 Ke = 2.92 e-3 [V.s/rad] = 3.06e-4 [V/rpm]
D. トルク定数 Kt = 2.92 e-3 [N.m/ A] = 29.8[g.cm / A]
E. 粘性抵抗係数 D = 3.36 e-8 [N.m.rad / s]
F. その他の抵抗 Fr = 1.41e-4 [N.m] = 1.44 [g.cm]
2.4.インダクタンスLを測定する。
いままでは、静的な測定からモータの定数を測定してきました。こんどは動的な特性からしか測定できないインダクタンスL、慣性モーメントJの測定を試みます。動的な特性を測定するためにはストレージタイプの測定器が必要で、今回は簡易ストレージ計測器を作成しました。まずはインダクタンスから測定してみます。①式は
内部抵抗Raを測定した時と同様に、モータを手で止めると
ここで少し式を変形して
この式は通常のRL回路になります。通常の電圧ステップ応答の式
が飽和電流になります。従って、電流が飽和電流の63%となる時間が L/Ra になり、Raがすでに分かっていますのでインダクタンスLが分かります。ただし、計算時には、電流測定用の抵抗を加えなければいけません。
測定結果です。測定は簡易ストレージ測定器を用い、1Ωの抵抗をモータに直列につけ電圧5[V]を印加し1Ω抵抗に発生する電圧を測定しました。測定結果はグラフです。グラフは横軸が時間[秒]、縦軸が電圧です。100us毎に電圧を300サンプル測定した結果です。電圧印加後すぐに0.53[V]に飽和しています。1Ωで電圧を測定しているので、この値がそのまま電流値になります。
注:rpm, [V]は、前の測定結果であり、今回の測定値とは関係がありません。簡易ストレージ測定器については後ほど説明します。
電流の変化がこのグラフでは、分からないので、測定したデータをエクスポートし、電圧印加直後の1Ωに発生している電圧部分を拡大しました。
グラフより、電圧印加後、約1msで飽和していることが分かります。
電流飽和値が0.53Aです。飽和電流の63%( =0.33[A] )になる時間は、グラフより、250us付近であることが分かります。もう少し、サンプル間隔の短い測定器があれば、より詳しく分かると思います。
L = ( Ra+1) × 250e-6 = ( 9.15[Ω]+1[Ω] )× 250e-6[S] = 2.54e-3 [H]
= 2.54 [mH]
になりました。
モータの特性において、このLとRaで決まる時定数を電気的時定数と言い、モータの主要な特性の一つになっています。
2.5.慣性モーメントJを測定して見る。
慣性モーメントJを測定する方法を考えます。慣性モーメントは②式
最初に出した5つの式を少し変形した3つの式を作りました。
①´
②´
④´
②´と④´から、トルクT(t)を消して、i(t)に関する式を作ります。
ここで①´式のうち
を考えます。
インダクタンスLの測定の時に、このインダクタンスLと内部抵抗Raでの電気的時定数は0.278msでした。この値は、今から測定し、計算する慣性モーメントに関連して出てくる機械的時定数と比較しかなり小さい値となると思われます。このため、この項は無視することが出来、①´式を以下のように変更出来ます。
インダクタンスLの影響を無視した上記の式に⑤式のi(t)を代入し
∴
⑥式は、たくさん係数がついていますが、インダクタンスL測定時の式
と同じ形になりました。i(t)の代わりにw(t)が入り、係数が複雑になっています。
⑥式は、回転数(角速度)の電圧応答になります。
従って、インダクタンスLの時は電流、時間の測定でしたが、回転数(角速度)、時間の関係を測定すれば、⑥式の係数が求められます。⑥式において決定していない定数はJだけです。また、時間によって変化するのは回転数(角速度)のみです。
インダクタンスLの時は電気的時定数として、
今回は機械的時定数として
が測定されます。
測定結果を下に示します。5[V]の電圧を印加した時の回転数[rpm]応答です。赤いラインが回転数を示しています。横軸は時間[秒]です。[rpm]の所に11583と出ていますが、5[V]印加における定常値(飽和値)です。先に測定しておきました。青いラインは電圧ですが、何も計っておりません。
上記のグラフは一回のみの測定を示しています。モータの回転数が揺れているのが分かります。次のグラフは20回測定し、重ね書きしたものです。
インダクタンスLの測定の時と同じように飽和値の63%になる時間を見つけます。
飽和値を11583[rpm]として、63%の回転数は、7297[rpm]となり、上記のグラフから
約 55msの付近と思われます。
計測用ソフトをもう少し発展させ平均化できればいいのですが、目視で大体の値です。
また、このグラフから、電圧印加後、すぐにモータは回らず、少し時間(30ms程度)経ってから、回転が開始したようにも見えます。しかし、このグラフ上の現象は、測定方法にあります。回転数の測定はスリットを用いて、スリットがフォトインタラプタを横切る時間を測定しています。本来は瞬間的な回転数を測定すべきなのですが、測定するための器具が高価であるという事と、測定する時に、慣性モーメント、抵抗が増えるために測定後の計算が難しくなるということで、スリットを横切る時間測定としています。従って、モータの回転数が低い時の応答は正しく測定は出来ていません。
本当にモータがすぐに回り始めているかを、電流を測定することにより確認して見ました。
上のグラフが測定結果です。モータに直列に1Ωの抵抗を入れ、5[V]を印加した時の電流変化です。横軸は時間[秒]、縦軸は電圧[V]です。1Ωなのでそのまま電流値になります。500us毎に150ms間サンプリングをしています。グラフから分かるように、電圧印加後インダクタンスによる遅れがほんの少しありますが、すぐに電流は減少を始めています。電流が減少するのは、モータが回転をはじめ、自分で発電しているためです。もう少し、細かい測定結果を示します。
このグラフは5[V]電圧印加後 100us毎に30ms間電流(1Ω抵抗を用いて)を測定したのものです。20回測定の重ね書きです。横軸は時間[秒]です。グラフから分かるように電圧印加1ms後には電流は減少を始め、モータは回転を開始していることが分かります。
実は、この測定をしていて気がついたのですが、回転数の代わりに電流の変化を測定しても、慣性モーメントJの測定が出来るのではないかと、グラフを見ていて思いました。何方か、数式を考えて下さい。
と言うことで
前に測定した各定数を入れてモーメントJは
= 5.31 e-8 [N.m.s2/rad]
となり、これですべてのモータの定数の測定が終わりました。
モータの専門書によると、各定数は、モータの回転状況等で変動するとありましたが、確かに、測定値の変動が(特に回転数)大きくなかなかうまく測定出来ませんでした。今回は最初の①-⑤式が常に成り立つという条件での測定です。誤差は大きいかも知れませんが、とんでもない数字ではないと思っています。
3.TOMIX M-4の特性のまとめ
A. 整流子電圧 Vb = 0.15[V]B. 内部抵抗 Ra = 9.15[Ω]
C. 逆起電力定数 Ke = 2.92 e-3 [V.s/rad] = 3.06e-4 [V/rpm]
D. トルク定数 Kt = 2.92 e-3 [N.m/ A] = 29.8[g.cm / A]
E. 粘性抵抗係数 D = 3.36 e-8 [N.m.rad / s]
F. その他の抵抗 r = 1.41e-4 [N.m] = 1.44 [g.cm]
G. インダクタンス L = 2.54[mH]
H. 慣性モーメント J = 5.31 e-8[N.m.s2/rad]
でした。
4.シミュレーションをして見る。
今回測定した結果を用いてシミュレーションをして見ました。シミュレーションはPID速度制御のために作成したものです。PID制御とは、古典制御理論を元にした制御方式の一つで、色々な分野で使われています。桂庵は、制御理論を30年ほど前に勉強しましたが、電磁気学と同様忘れてしまいました。とは言え、デコーダを作り、モータを制御するためには再勉強が必要で、モータの動作と共にPID制御の勉強をして見ました。
今回の測定結果とシミュレーションの結果を示します。
上のグラフは、慣性モーメントの測定時のグラフです。赤ラインが回転数[rpm]です。約11500[rpm]付近で飽和します。横軸は時間[秒]です。
下側のグラフは、シミュレーション結果です。縦軸は回転数[rpm]です。横軸は時間です。
データは3.TOMIX M-4のまとめのデータを用いて計算しています。PID制御を停止させた状態でステップ応答させた時のシミュレーション結果です。
縦軸、横軸をほぼ合わせて表示していますので、実際とシミュレーションの比較が出来ます。
実際のデータと比較し、シミュレーションでは回転数が若干高め、また、回転数の立ち上がり速い(機械的時定数が小さい)ですが、まあまあの結果と考えています。