Vactrol 特性測定とSpice model

概要

伝スパ動画 の方法に倣ってVactrol(アナログフォトカプラ)の特性を測定し、それを使ってLTspiceのモデルを作成する。

伝スパ動画 とか LTspice@groups.io などのネット上には何種類かのLTspiceのモデルが上がっているのだが、入手したVactrolの特性をざっくりあたってみると、その特性はモデルやDatasheetとは異なるようだ。そこで特性をしっかりと測定し自己満足モデルを作ることにした。
入手したVactrolは下記になる。

Vactrol 購入先
LCR0203 秋月
Aliexpress
LCR0202 Aliexpress
VTL5C3 Aliexpress

本文

測定項目と測定方法

測定回路

測定方法は 伝スパ の方法に倣う。ただし、Analog Deiscovery2の代わりに発振器を使ってLEDへ流す定電流を作る。LED電流とLDR抵抗はDMMで直接測定する。なお、回路図中に示すC1 とR4 はオペアンプの発振対策である。 AD8628 は”ゼロ・ドリフト、単電源動作、レールtoレール入力 / 出力”で、手持ちのなかではいちばん計装に向いているオペアンプである

伝スパに倣って、最初はオシロ(DS1054Z)からCH1, CH2のCSVデータを吐き出したが、データの分解能が数値処理できるレベルになくDMMを使うことにした。。

測定項目

  1. ON Resistance: LED Current Vs LDR Resistans
  2. LED Vf: LED Current Vs LED Forward Voltage
  3. Response Time: Turn-on to 63% Final RON (Typ.), Turn-off (Decay) to 100 k? (Max.)

$1.\ ON\ Resistance$は静特性である。$1\mu A$を測定できるように検出抵抗R2を$4.7k\Omega$とし、オペアンプに 10mHz(100sec/cycle) の指数関数波形を与えた。この条件だと最大でも$1mA$に満たないので、検出抵抗R2を$220\Omega$とし、 2mHz(500sec/cycle) のRamp波での測定も追加した。2件のデータをLED電流基準に結合して使う。

時間軸は異なるが、これらの波形例を示す。ピンク色が発振器信号で黄色がLED電流換算の電圧CH1である。


LCR0203は上述の方法で測定した。当初のこの測定条件は時間がかかるしデータ数も多いので、測定条件を変更した。

新たな測定条件は、検出抵抗R2を$100\Omega$とし、 2mHz(500sec/cycle) の緩やかに増加する逆LOG関数波形である。この測定条件の変更は結果に影響しないことを確認している。

この条件での波形例を下記に示す。



$2. \ LED \ V_f$の測定にも逆LOG関数波形を使った。周波数は 10mHz(100sec/cycle)

$3.\ Response\ Time$はLED電流のon/0ffに対するLDR抵抗の応答性を評価するため、VTL5C3のデータシートにある評価条件にした。

LCR0203

秋月購入2個 (No1, No2)、Aliexpress購入2個 (No3, No4) の合計4サンプルを測定した。

ON Resistance

秋月購入品とAliexpress購入品に特性の違いはない。80uA以下はほぼOFF Resistance と考えられる。この値は1MΩを超える値であるが、サンプルによってバラツキがある。 データシート との比較を表に示す。 随分違う


Output Light Resistance Output Dark Resistance
0.01mA 20mA @10 seconds off later
Datasheet 1kΩ 50Ω 1-10MΩ
Sample No.1 123kΩ - 13MΩ
Sample No.2 142kΩ - 8MΩ
Sample No.3 290kΩ 131Ω 9MΩ
Sample No.4 80kΩ - 34MΩ
伝スパ 4kΩ - -



LED $V_f$

伝スパ の方法で$V_f$ の調整を行った結果のみを示す。sample1(秋月)とsample3(Aliexpress)でデータを取り、それらを包括する$V_f$になるよう調整している。

.model LCR_D D(Is=1.56e-18 Rs=7 N=2 Cjo=.5n Xti=200 Iave=175mA Vpk=5 mfg=Denspa type=LED)


Response Time

オシロの波形を読み取り評価する。
評価条件は上記に示したように、 Turn-on to 63% Final RON (Typ.), Turn-off (Decay) to 100 k? (Max.) である。

Turn-on

Turn-off

測定回路で示したように、LDRの抵抗$R_o$は次式で与えられる。 $$ \begin{aligned} R_o &= \frac{R_3 \times V(ch2))}{V(in) - V(ch2)} \\ \end{aligned} $$ この関係から、$R_o = 100k \Omega$となるときの$V(ch2)$を求める。

$$ \begin{aligned} R_3 \times V(ch2))&= R_o \times \{ V(in) - V(ch2) \} \\ \end{aligned} $$ この式を$V(ch2)$について解くと、 $$ \begin{aligned} V(ch2) &= \frac{ R_o \times V(in)}{R_3 + R_o} = \frac{100k \times 5[V]}{10k + 100k} \\ &= 4.54[V] \end{aligned} $$

となり、電源電圧 5V をTurn-offしたとき、$V(ch2)$ が 4.5V が $R_o = 100k\Omega$ である。

Turn-off時のオシロ波形は下図であり、その遅延時間を表にまとめる。


Turn-on to 63% Final RON (Typ.) Turn-off (Decay) to 100 k? (Max.)
Datasheet 2.5ms ?
Sample No.1 8.6us 119ms
Sample No.2 14.4us 281ms
Sample No.3 9.2us 155ms
Sample No.4 12.8us 185ms

LCR0202

Aliexpress購入品である。N=5 で測定する。

ON Resistance

暗抵抗は100MΩを超える。sample No3のみ、実際には30uAから80uAの範囲ではOL(オーバレンジ、測定不能、開放)になる。
100μA以上の実利用域で、No1,No4の2サンプルは他の3サンプルはよりも抵抗が大きい。

LED $V_f$

.model LCR_D D(Is=1e-18 Rs=10 N=2 Cjo=.5n Xti=200 Iave=175mA Vpk=5 mfg=Denspa type=LED)


Response Time

まとめ項に載せる。

VTL5C3

ON Resistance

特性は LTspice@groups.io から入手したモデルと大きく異なる。

LED $V_f$

.model LCR_D D(Is=1e-18 Rs=8 N=2 Cjo=.5n Xti=200 Iave=175mA Vpk=5 mfg=Denspa type=LED)

Response Time

まとめ項に載せる。

まとめ

Aliexpress購入3種類のVactrolのON抵抗特性を比較してみる。残念なことにこれらの中華性Vactrolはバラツキの範囲で同じ特性だと思う。

ON Resistance

Response Time

同じく、応答性に関しても3種類のVactrolは同じだと思う。

Turn-on to 63%Final RON (Typ.) Turn-off (Decay)to 100 k? (Max.)
LCR0203 Datasheet < 2.5ms ?
Sample No.1 8.6us 119ms
Sample No.2 14.4us 281ms
Sample No.3 9.2us 155ms
Sample No.4 12.8us 185ms
LCR0202 Datasheet < 2.5ms ?
Sample No.1 32.8us 280ms
Sample No.2 13.1us 280ms
Sample No.3 x x
Sample No.4 17.4us 216ms
Sample No.5 11.1us 340ms
VTL5C3 Datasheet 2.5ms 35ms
Sample No.1 10.7us 211ms
Sample No.2 13.5us 174ms
Sample No.3 7.1us 240ms
Sample No.4 9.5us 322ms
Sample No.5 8.3us 322ms

spice model

3種類の中国製Vactrolは基本的には同じ特性であるが、測定の成果としてそれぞれのモデルを作る。
それぞれ、次のサンプルをモデルにする。(Turn-off の応答が測定サンプル中の中間値のサンプルを選んだ。)

モデルファイル(.asc)を見ればわかるが、応答性はLDRの立ち上がりをコンデンサの容量で決めている。上表の100 k? の応答時間になるようにコンデンサ容量をシミュレーションをしながら決めた。

3つのモデルでステップ応答のシミュレーションしたものを示す。上から3段目までが作成したモデルの結果で、4段目は公開されているVTL5C3のモデルでの結果を参考として示す。
右軸の線形特性がON抵抗である。

3つのモデルがほとんど同じ応答で、VTL5C3の公開モデルと全く異なることがわかる。

関連リンク

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